アインシュタイン方程式の中身 — 曲率と測地線
アインシュタイン方程式の中身 — 曲率と測地線
「物質が時空を曲げる」を数式でどう書くのか。数式の細部には立ち入らず、方程式の構造と各部品の意味を掴みます。
1. 方程式の全体像
一般相対性理論の核心は、たった1本の方程式です。
G_μν = (8πG/c⁴) T_μν
左辺 G_μν: 時空がどう曲がっているか(アインシュタイン・テンソル) 右辺 T_μν: 物質とエネルギーがどう分布しているか(エネルギー・運動量テンソル)
(注: 添字 μν は「4次元の各方向の組み合わせ」を表すラベル。実質は10本の連立方程式です)
読み方はシンプルです。
- 右辺に物質を置くと、左辺の時空の曲がり方が決まる
- 「物質は時空に曲がり方を教え、時空は物質に動き方を教える」(ホイーラー)の前半がこの式
係数 8πG/c⁴ は驚くほど小さい数で、**時空は極めて「硬い」**ことを意味します。目に見えるほど曲げるには、星や銀河級の質量が必要 — 重力波の振幅が原子核以下なのもこのためです。
2. 「曲率」とは何か — 曲がりをどう測るか
時空の中にいる私たちは、外から眺めて「曲がってる」と確認できません。内側から測れる曲がりの定義が必要です。
内側から曲がりを知る方法
- 三角形の内角の和: 平面なら180度。地球面に大きな三角形(北極と赤道上の2点)を描くと270度になる。和が180度からずれていれば、その面は曲がっている
- 平行線のふるまい: 平面では平行線は交わらない。地球面で赤道から平行に北へ出発した2本の経線は北極で交わる
この「平行に出発したものが近づく・離れる」度合いを精密化したものが曲率(リーマン曲率)です。重力に翻訳すると: 自由落下する2つのリンゴが互いに近づいていく(潮汐力)こと自体が、時空の曲率の現れです。
ニュートンとの対比
| ニュートン | アインシュタイン | |
|---|---|---|
| 重力の正体 | 物体間に働く遠隔力 | 時空の曲率 |
| リンゴが落ちる理由 | 地球が引っ張る | 地球が曲げた時空をまっすぐ進んだ結果 |
| 伝わる速さ | 瞬時(遠隔作用) | 光速(重力波) |
3. 「測地線」とは何か — 曲がった時空の「まっすぐ」
曲がった空間にも「できる限りまっすぐな線」は定義できます。これが測地線です。
- 地球面の測地線 = 大円。東京→ロンドンの航空路が北極近くを通るのは、それが球面上の「まっすぐ(最短)」だから
- 自由落下する物体・惑星・光は、すべて曲がった時空の測地線をまっすぐ進んでいる
地図(メルカトル図法)で見ると航空路は曲がって見えますが、実際は最短経路です。同様に、惑星の楕円軌道も「曲げられている」のではなく、曲がった時空での直進なのです。
時空の場合はひとつ注意があります。ミンコフスキー時空の幾何学では、自由落下の測地線は固有時(自分の時計の経過)を最大にする経路です。「物はなぜ落ちるのか」への一般相対論の答えは、「自分の時間が最も多く流れる道を選ぶから」とも言い換えられます。
4. 方程式を「解く」とは
アインシュタイン方程式は非線形の連立方程式で、一般に解くのは極めて困難です。特別な状況を仮定した厳密解が、それぞれ物理の金鉱になりました。
| 解 | 年 | 仮定 | 帰結 |
|---|---|---|---|
| シュワルツシルト解 | 1916 | 球対称・真空 | 惑星軌道の精密計算、ブラックホール |
| フリードマン=ルメートル解 | 1922-27 | 宇宙は一様・等方 | 膨張宇宙、ビッグバン宇宙論 |
| カー解 | 1963 | 回転する天体 | 現実の(自転する)ブラックホール |
現代では、ブラックホール合体のような複雑な状況はスーパーコンピュータで数値的に解きます(数値相対論)。LIGO が重力波の波形を同定できたのは、この数値解の波形カタログと照合したからです。
flowchart LR
A["アインシュタイン方程式<br>曲率 = 物質分布"] --> B["シュワルツシルト解<br>→ ブラックホール"]
A --> C["フリードマン解<br>→ 膨張宇宙"]
A --> D["カー解<br>→ 回転ブラックホール"]
A --> E["数値相対論<br>→ 重力波の波形予測"]
5. ニュートン力学への帰着
重力が弱く、速度が遅い極限でアインシュタイン方程式を近似すると、ニュートンの万有引力の法則がそのまま出てきます。太陽系の惑星運動でずれが見えたのは、最も重力の強い太陽に最も近い水星だけ(近日点移動、100年で43秒角)でした。新理論は旧理論を破壊するのではなく、適用範囲を明示して包み込む — その教科書的な実例です。
まとめ
- アインシュタイン方程式は「時空の曲率 = 物質・エネルギーの分布」という1本の等式
- 曲率は「三角形の内角の和」「平行線のふるまい」のように内側から測れる曲がり具合。潮汐力がその物理的な現れ
- 物体や光は曲がった時空の測地線(固有時最大の経路)を直進しているだけ
- 厳密解(シュワルツシルト・フリードマン・カー)がブラックホールと宇宙論を生み、数値解が重力波天文学を支えている
参考文献
- A. Einstein (1915)「重力の場の方程式」プロイセン科学アカデミー紀要 — 原論文
- J. B. Hartle『Gravity: An Introduction to Einstein's General Relativity』(Cambridge University Press)
- C. W. Misner, K. S. Thorne & J. A. Wheeler『Gravitation』(W. H. Freeman) — 通称 MTW。本格派向けの百科事典的教科書