損害額・解決金の算定実務
損害額・解決金の算定実務
概要
労働事件では、==未払賃金・残業代==(確定計算)、==付加金==、==解雇無効期間の賃金==、==不法行為による慰謝料・治療費・逸失利益==など、請求額の算定が和解・訴訟の中心になる。本ナレッジは、算定の枠組み・計算書の作り方・解決金の相場感を実務向けに整理する(個別事件の相場を保証するものではない)。
関連:no.4.2(未払賃金・残業代の実体と立証)、no.4.8(残業代計算)、no.4.1(解雇無効賃金)、no.4.5(ハラスメント損害)、no.6(計算書ひな形)。
1. 請求の類型と算定の軸
| 類型 |
算定の軸 |
主な根拠 |
| 未払残業代 |
労働時間×時給単価×割増率−支払済 |
労基法37条、no.4.2・no.4.8 |
| 付加金 |
114条対象(第20・26・37条・第39条第9項)の認容本体と==同額==。基本給のみは対象外 |
労基法114条 |
| 解雇無効期間の賃金 |
月額賃金×無効期間月数 |
労基法24条 |
| 慰謝料 |
不法行為・精神苦痛(裁量的) |
民法709条 |
| 治療費・休業損害 |
実費・休業期間の逸失利益 |
民法 |
| 遅延損害金 |
在職中は法定利率(年3%・民法404条)、退職後は賃確法第6条・同施行令第1条により==年14.6%==(政令で定める固定率)×日数 |
民法404条・賃確法6条 |
2. 未払残業代・バックペイ
2-1. 計算の流れ
- 対象期間の確定(時効:当分の間3年、2020年3月以前の支払期日分は2年)
- 月別に所定労働時間・法定外・休日・深夜を区分
- 1時間当たり賃金を算定(施行規則19条・21条)
- 固定残業の有効性を検討し、控除または超過分のみ請求
- 支払済みを差し引く
- 付加金(本体認容額と同額)・遅延損害金を別枠で積算
2-2. 計算書に載せる項目(表形式)
| 列 |
内容 |
| 年月 |
2023年1月 等 |
| 所定時間 |
160h 等 |
| 時間外 |
30h 等 |
| 休日・深夜 |
各時間 |
| 時給単価 |
2,500円 等 |
| 割増率 |
25%・35% 等 |
| 請求額 |
月額 |
| 支払済 |
控除 |
| 未払額 |
差額 |
3. 付加金・遅延損害金
| 項目 |
算定 |
| 付加金 |
第114条対象(第20・26・37条・第39条第9項)の認容本体額×100%(第24条のみの未払基本給は対象外。請求は同額。認容は裁量あり。no.4.2 §4) |
| 遅延損害金 |
各月の支払期日の翌日から支払完結日まで日割り。在職中は==年3%==(民法404条。2020年3月31日以前の支払期日分は商事法定利率年6%等の経過措置あり)。退職後の賃金請求は退職日の翌日から==賃確法第6条・同施行令第1条により年14.6%==(政令で定める固定率) |
| 14.6%の除外事由 |
天災地変、破産手続開始決定、==支払うべき賃金の存否を裁判所・労働委員会で争っている==等(賃確法施行規則第6条)に該当する期間は年14.6%の対象外(その間は年3%等の法定利率)。使用者側の常套的抗弁のため反論を準備 |
| 合計イメージ |
本体+付加金(認容時)+遅延損害金 |
4. 解雇無効・復職事件の金額
| 項目 |
算定の目安 |
| 無効期間の賃金 |
(基本給+固定的手当)×月数。賞与は就業規則・慣行による |
| 退職金・有給 |
無効期間を在籍とみなす場合の付随請求 |
| 損害賠償 |
復職が認められない場合でも、解雇に伴う損害賠償として月額賃金の○か月分等(事件による) |
| 解決金 |
賃金請求+精神的損害を包む一括金額で調停成立することも多い |
相場感(参考・非拘束):労働審判の調停では、請求額の3〜7割程度で折り合う事例もある。解雇無効が認められない場合、3〜12か月分相当の解決金で終了する例もある(事案・証拠・交渉力で大きく変動)。
5. ハラスメント・安全配慮義務違反の慰謝料
| 要素 |
考慮事項 |
| 加害の態様 |
反復性、公然性、権力の濫用、性的内容 |
| 結果 |
精神障害の程度、休職期間、退職の有無 |
| 因果 |
業務起因の強弱 |
| 過失相殺 |
労働者側の過失 |
| 既払 |
休業補償・労災給付との調整 |
相場感(参考):判例・実務では、事案により数十万円〜数百万円程度の幅。死亡・重度障害では数千万円超の請求・認容例もある。個別性が極めて高いため、類似判決の検索が必須(no.4.3)。
6. 解決金・ADRでの組み立て
6-1. 一括解決金の内訳提示
調停・和解では、次のように内訳を示さず総額で提案することも、内訳付きで納得感を得ることもある。
| 内訳例 |
金額 |
| 未払残業代 |
150万円 |
| 付加金(放棄・減額) |
0円(譲歩) |
| 解雇に伴う精神的損害 |
50万円 |
| 合計 |
200万円 |
6-2. 譲歩の整理表(弁護人メモ)
| 項目 |
請求上限 |
想定認容 |
和解目標 |
| 残業代 |
300万 |
200万 |
180万 |
| 付加金 |
200万 |
0〜100万 |
0 |
| 慰謝料 |
100万 |
30万 |
20万 |
7. 弁護士費用・訴訟費用(参考)
| 項目 |
内容 |
| 労働審判 |
訴額に応じた申立手数料(収入印紙)が必要。民事訴訟の約半額(民訴費用法) |
| 民事訴訟 |
訴訟費用(印紙・郵券)、弁護士報酬(成功報酬・時間制) |
| 敗訴リスク |
訴訟では一部請求棄却時の費用負担 |
| 法テラス |
労働問題の法律相談・弁護士費用の負担軽減 |
8. 実務チェックリスト
9. 関連ナレッジ
| No. |
タイトル |
| 4.2 |
未払賃金・残業代・付加金 |
| 4.8 |
残業代の具体的計算実務 |
| 4.1 |
解雇・解雇無効 |
| 4.5 |
ハラスメント・安全配慮義務 |
| 6 |
労働事件 書面ひな形集 |
相場感は事件・地域・証拠で変動する。本ナレッジは算定手順の整理であり、保証する金額ではない。