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平成23(受)1107 津田電気計器事件(高年法・継続雇用基準・雇止め)平成24年11月29日 最高裁判所第一小法廷

津田電気計器事件・最高裁判決解説

概要

裁判所: 最高裁判所第一小法廷(裁判長:山浦善樹、裁判官:櫻井龍子・金築誠志・横田尤孝・白木勇)

判決日: 平成24年11月29日

上告人(使用者:津田電気計器株式会社)において定年後1年間の嘱託雇用契約で雇用されていた被上告人が、継続雇用の申込みをしたにもかかわらず拒絶されたことから、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条2項所定の継続雇用基準を充足していたと主張して、雇用契約上の地位確認と賃金支払を求めた事案。==最高裁は、使用者が継続雇用基準を満たす労働者について再雇用をしないことは、権利濫用として許されず、当然に雇用関係が存続するものと扱われると判示し、上告を棄却した==。

法的根拠: 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条1項・2項、同法附則4条1項(平成22年4月1日〜平成25年3月31日の読替規定)

出典: hanrei-pdf-82762.pdf


1. 当事者

原告(被上告人)

項目 内容
生年月日 昭和23年1月19日生
雇用開始 昭和41年3月7日(期間の定めのない雇用契約)
嘱託雇用 定年(60歳)後1年間嘱託として雇用
請求 嘱託雇用契約終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係の存続確認・賃金支払(予備的に週30時間・月額19万9293円)

被告(上告人)

項目 内容
名称 津田電気計器株式会社
事業内容 電子制御機器・電子計測機器の製造及び販売(大阪府箕面市本社工場)
主張 被上告人は継続雇用基準を満たさない(査定結果0点未満)→ 再雇用義務なし

2. 事実関係

時期 事実
平成3年3月5日 上告人が労働組合との交渉で、組合員につき定年後1年間嘱託として雇用することを合意・労働協約締結。その後全従業員に適用
平成18年3月23日 上告人が従業員過半数代表者との書面による協定に基づき、**高年齢者継続雇用規程(本件規程)**を制定・周知
平成20年12月15日 上告人が被上告人に対し、継続雇用基準を満たさず、嘱託雇用契約の終了日(平成21年1月20日)をもって雇用終了の旨を書面通知
平成21年1月20日 被上告人の嘱託雇用契約終了

本件規程の概要(高年法9条2項に基づく継続雇用基準):

項目 内容
① 対象者の選考 継続雇用を希望する高年齢者のうちから選考して採用
② 採用基準 在職中の業務実態・業務能力の査定帳票を点数化し、総点数が0点以上であれば採用、0点未満は原則採用しない
③ 労働時間 総点数10点以上:週40時間以内、10点未満:週30時間以内
④ 最長雇用期限 平成22年4月1日〜平成25年3月31日の期間は満64歳まで(満64歳に達した日をもって退職)
⑤ 賃金 満61歳時の基本給・採用後の労働時間から所定の計算式で算出(最低基準)

評価の誤りの事実:


3. 争点と判断の流れ

争点① 高年法9条の解釈と継続雇用制度の法的性質

論点 最高裁の判断
高年法9条1項の趣旨 定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年廃止のいずれかを義務付け、64歳未満の定年の定めをしている事業主に高年齢者の64歳までの安定した雇用を確保させる
継続雇用制度の導入 法9条2項に基づき過半数代表者との書面協定で継続雇用基準を定め周知したとき、同条1項2号の継続雇用制度を「導入したものとみなす」
継続雇用基準を満たす者への不承諾 ==客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない==

争点② 継続雇用基準を満たす被上告人を再雇用しないことの効果

段階 内容
前提事実 被上告人は総点数1点で継続雇用基準(0点以上)を満たす
合理的期待 嘱託雇用契約終了後も雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由がある
不承諾の評価 ==他にやむを得ないものとみるべき特段の事情もない以上、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない==
結論 ==上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当==
労働条件 本件規程の定め(週30時間、月額19万9293円、満64歳まで)に従う

4. 結論(主文)


5. 判決のポイント

  1. 継続雇用基準を満たす者の権利的地位 — 高年法9条2項に基づく継続雇用基準を充足する労働者は、嘱託雇用契約終了後も雇用継続への合理的な期待が認められる。
  2. 権利濫用法理の適用 — 使用者が基準を満たす者に対し正当な理由なく再雇用を拒否することは、権利濫用として許されず、雇用関係が存続しているものと扱われる(昭和49年・昭和61年最判の雇止め法理を援用)。
  3. 評価ミスの効果 — 使用者が査定の点数化を誤った結果として基準を満たさないと判断した場合でも、客観的に基準を満たすならば再雇用拒否は権利濫用となる。
  4. 労働条件は規程による — 再雇用後の労働時間・賃金・雇用期限は継続雇用規程の定めに従う(週30時間・月額19万9293円・満64歳まで)。
  5. 現行制度との関係 — 本判決後、平成25年改正高年法により65歳までの継続雇用が義務化され、基準設定による例外は廃止された(経過措置を除く)。

6. 法的根拠

主要条文

条文 内容 本件での役割
高年法9条1項(附則4条1項読替) 64歳未満の定年を定める事業主に64歳までの安定雇用確保を義務付け 継続雇用制度導入の法的義務の根拠
高年法9条2項 過半数代表者との書面協定による継続雇用基準の設定 本件規程設定の根拠。基準を満たす者への再雇用義務の前提
高年法附則4条1項 平成22年4月1日〜平成25年3月31日の間の読替(64歳まで) 本件の雇用確保義務の対象年齢の根拠

引用先例

先例 裁判所・日付 本件での引用
東芝柳町工場事件 最判昭和49年7月22日・民集28巻5号927頁 雇止め法理(継続的雇用の実態・合理的期待)
日立メディコ事件 最判昭和61年12月4日・裁判集民事149号209頁 雇止め法理(更新拒絶権の濫用)

7. 実務上の示唆

使用者側

労働者側


8. 関連キーワード

津田電気計器事件、高年齢者雇用安定法、継続雇用制度、継続雇用基準、高年法9条2項、嘱託雇用、定年後再雇用、雇止め、権利濫用、東芝柳町工場事件、日立メディコ事件、査定点数化、週30時間


10. わかりやすい法的根拠解説

本節は、判決の法的根拠を初学者向けに整理した解説です。§6の条文一覧と併読してください。

この事件で何が問題だったか

60歳の定年を迎えた従業員は、会社が「継続雇用制度」を設けていれば、一定の基準を満たす限り65歳まで(本件当時は64歳まで)働き続けられます。この「基準を満たしているのに再雇用を断られた」ことの法的効果が本件の核心です。

① 高年法9条の構造

flowchart TD
  A["定年60歳の会社
(高年法9条の適用を受ける)"] --> B["64歳までの安定雇用確保義務
(高年法9条1項)"]
  B --> C1["定年の引上げ"]
  B --> C2["継続雇用制度の導入
(本件)"]
  B --> C3["定年の廃止"]
  C2 --> D["過半数代表者との
書面協定で
継続雇用基準を設定
(高年法9条2項)"]
  D --> E["継続雇用制度の
導入とみなす"]
  E --> F{"基準を満たすか?"}
  F -->|"満たす(本件:1点)"| G["継続雇用義務
→拒絶は権利濫用"]
  F -->|"満たさない"| H["原則として
採用しなくてよい"]

② 基準を満たす者への再雇用拒否がなぜ権利濫用か

高年法は継続雇用制度を「義務」として導入させています。基準を満たす者に対して「採用する旨の制度」があるにもかかわらず承諾しないことは、その制度の趣旨を没却する行為です。

最高裁は、雇止め法理(東芝柳町・日立メディコ事件)を援用し、次のように判断しました。

要件 本件での評価
継続雇用への合理的期待 基準を満たす者は「雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由がある」
やむを得ない特段の事情 認められない
→ 結論 再雇用拒否は権利濫用 → 雇用関係が存続しているものとみる

③ 本件の「評価ミス」問題

使用者は「0点未満」と算定して拒否しましたが、本当は「1点」でした。

→ 客観的に基準を満たす者に対して誤った評価を根拠に拒否しても、客観的事実(基準を満たすこと)が優先され、権利濫用となります。

④ 再雇用後の労働条件はどうなるか

雇用関係が存続すると認められた場合、労働条件は継続雇用規程の定めに従います。

項目 本件の内容
労働時間 週30時間以内(総点数10点未満のため)
月額賃金 19万9293円(規程の計算式による)
雇用期限 満64歳に達した日(平成24年1月18日)まで

⑤ 争点と条文の対応表(逆引き)

争ったこと 見るべき法理・条文
継続雇用制度を設ける義務 高年法9条1項(現行は65歳まで)
基準設定の根拠 高年法9条2項(現行は廃止・経過措置のみ)
基準を満たす者の地位 東芝柳町・日立メディコ事件 → 本判決(権利濫用法理)
再雇用後の労働条件 継続雇用規程の定め

本ナレッジは判決解説の整理であり、個別の法的助言ではありません。