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平成3(オ)1943 東京エグゼクティブ・サーチ事件(人材スカウト・有料職業紹介・手数料上限)平成6年4月22日 最高裁判所第二小法廷

東京エグゼクティブ・サーチ事件・最高裁判決解説

概要

裁判所: 最高裁判所第二小法廷(裁判長:根岸重治、裁判官:中島敏次郎・木崎良平・大西勝也)

判決日: 平成6年4月22日

有料職業紹介事業の許可を得た人材スカウト会社(上告人)が、診療所経営者(被上告人)の依頼に応じて医師を探索・勧奨・紹介し雇用契約の成立に至らせたことに対し、200万円の報酬契約のうち職業安定法施行規則所定の最高手数料額(50万5000円)を超える部分の支払を被上告人が拒否した事案。==最高裁は、スカウト行為を含む一体的な本件業務が職業安定法にいう「職業紹介におけるあっ旋」に当たると認め、同法32条6項(手数料の最高額規制)が超過部分の私法上の効力を否定するものと解して、原審の判断を是認し上告を棄却した==。

法的根拠: 職業安定法5条1項(職業紹介の定義)・32条1項ただし書・6項(有料職業紹介事業の許可・手数料最高額)、職業安定法施行規則24条14項・別表第3(手数料最高額の規定)

出典: hanrei-pdf-18986.pdf


1. 当事者

原告(上告人)

項目 内容
名称 東京エグゼクティブ・サーチ(有料職業紹介事業の許可取得済み)
業務 企業の依頼に応じて求める人材を探索・勧奨して求人企業に就職させる人材スカウト等
請求 報酬200万円(調査活動費50万円+報酬150万円)の支払

被告(被上告人)

項目 内容
名称 「メルズクリニック」を経営する個人(内科・婦人科の診療所)
主張 本件業務は職業安定法の職業紹介に当たり手数料最高額(50万5000円)を超える部分は支払義務なし

2. 事実関係

時期 事実
昭和62年7月10日ころ 上告人が被上告人に対し、診療所の院長となれる内科・婦人科医師を探索・紹介する旨を約した
昭和62年7月13日ころ 上告人が医師の探索を開始。数人の医師を被上告人に紹介したが契約成立に至らず
平成元年2月15日ころ 上告人がA医師を被上告人に紹介
平成元年4月1日 被上告人がA医師との間で、院長として年俸1000万円での雇用契約を締結
平成元年3月30日ころ 被上告人が上告人に対し、本件業務(探索から紹介まで)の対価として調査活動費50万円+報酬150万円の合計200万円を平成元年6月30日限り支払う旨を約した
(その後) 被上告人が、本件業務は職業紹介に当たり手数料最高額(50万5000円)を超える部分は支払義務がないとして最高額を超える部分の支払を拒否

手数料最高額の計算: 職業安定法施行規則24条14項・別表第3により、A医師の6か月分の賃金(年俸1000万円×6/12=500万円)の10.1%=50万5000円が最高額。


3. 争点と判断の流れ

争点① スカウト行為が職業安定法の「職業紹介におけるあっ旋」に含まれるか

論点 最高裁の判断
「あっ旋」の意義 ==求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称する(最決昭30.10.4参照)==
スカウト行為の扱い ==求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するスカウト行為もあっ旋に含まれる==
理由 職業安定法の目的(各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え職業安定を図る)および32条の趣旨(弊害の多かった有料職業紹介を原則禁止、特別な技術を必要とする職業について許可制)からすれば、スカウト行為が規制に服しないとすれば法の趣旨を没却する
医師スカウト 対象が医師の場合でも同様
求職の申込みの時期 求人・求職の双方の申込みがあっ旋に先立ってされなければならないものではない。紹介者の勧奨に応じて求職の申込みがされた場合でもよい
結論 ==スカウト行為を含む本件業務が一体として「職業紹介におけるあっ旋」に当たるとした原審の判断は正当==

争点② 手数料最高額を超える部分の私法上の効力

論点 最高裁の判断
職業安定法32条6項の解釈 ==同項は、手数料契約のうち労働大臣が定める最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、契約の効力を最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当==
理由 同法の趣旨から、32条6項は最高額を超える部分の私法上の効力を否定することで求人者・求職者の利益を保護する趣旨を含む
結論 最高額(50万5000円)を超える部分の私法上の効力を否定した原審の判断は正当

4. 結論(主文)


5. 判決のポイント

  1. スカウト行為はあっ旋に含まれる — 既存の求職者を引き合わせる行為だけでなく、求職者を探索・勧奨するスカウト行為も職業安定法の「あっ旋」(職業紹介)に含まれる。
  2. 求職の申込みの時期は不問 — あっ旋に先立って求職の申込みがされることは必要なく、スカウトに応じた事後的な申込みでも足りる。
  3. 手数料最高額規定の私法的効力 — 職業安定法32条6項は強行規定として最高額を超える部分の手数料契約を私法上無効とする。最高額の範囲内でのみ報酬請求が認められる。
  4. 有料職業紹介事業の許可の意義 — 特別な技術を必要とする職業(医師等)について労働大臣の許可を得て有料職業紹介事業を行えるが、手数料規制には服する。
  5. 「調査活動費」の名目では逃れられない — 報酬の名目を「調査活動費」と分けても、一体として職業紹介のあっ旋に当たる業務の対価であれば手数料規制の対象となる。

6. 法的根拠

主要条文

条文 内容 本件での役割
職業安定法5条1項 職業紹介の定義(求人および求職の申込みを受け、求人者と求職者の間における雇用関係の成立のあっ旋) 本件業務が「職業紹介」に当たるかの定義規定
職業安定法32条1項ただし書 特別な技術を必要とする職業への有料職業紹介事業の許可 上告人が許可を受けた根拠
職業安定法32条6項 手数料契約のうち最高額を超える部分の効力 最高額超過部分の私法上の効力否定の根拠
職業安定法施行規則24条14項・別表第3 職業紹介手数料の最高額の計算方法(6か月分賃金の10.1%) 本件の最高額50万5000円の算定根拠

引用先例

先例 裁判所・日付 本件での引用
最決昭和30年10月4日(刑集9巻11号2150頁) 最高裁第三小法廷 「あっ旋」の意義(雇用関係成立のための便宜を図り成立を容易にさせる行為一般)
最大判昭和25年6月21日(刑集4巻6号1049頁) 最高裁大法廷 職業安定法32条の立法趣旨(有料職業紹介の原則禁止・許可制)

7. 実務上の示唆

使用者(求人者)側

人材紹介業者側

なお、現行法の状況: 本判決当時の規制(手数料最高額規制)は、平成11年(1999年)の職業安定法改正により、届出制の上限規制撤廃・変動手数料制の導入等の大幅な規制緩和が行われた。現行法の解釈は本判決とは異なる部分がある。


8. 関連キーワード

東京エグゼクティブ・サーチ事件、人材スカウト、有料職業紹介、あっ旋、職業安定法32条6項、手数料最高額、医師紹介、スカウト行為、求職の申込み、私法上の効力、強行規定、全員一致


10. わかりやすい法的根拠解説

本節は、判決の法的根拠を初学者向けに整理した解説です。§6の条文一覧と併読してください。

この事件で何が問題だったか

「医師を探してきて紹介します。成功したら200万円ください」という契約をした人材スカウト会社が、200万円全額を受け取れるか、それとも法律で決まった上限額(50万5000円)しか受け取れないかが争われました。

① 職業安定法が有料職業紹介を規制する理由

flowchart TD
  A["労働力の需要・供給の調整
と職業安定"] --> B["有料の職業紹介は
弊害が多い
(法律の立場)"]
  B --> C["原則として禁止
(無料で公正な職業紹介を行う)
職業安定法32条1項"]
  C --> D{"例外:特別な技術を
要する職業への
有料職業紹介"}
  D -->|"労働大臣の許可"| E["有料職業紹介事業
として許可"]
  E --> F["ただし手数料規制あり
(最高額を超えれば無効)"]

② 「スカウト行為」がなぜ規制の対象になるのか

「スカウト」は、求職者が自分から求職の申込みをしていないのに、紹介業者が積極的に候補者を探して声をかける行為です。

論点 裁判所の考え方
「あっ旋」は両者を引き合わせるだけか NO。雇用関係成立のための便宜を図る行為一般がすべてあっ旋
スカウトも含まれるか YES。スカウトを含まないとすれば職業安定法の趣旨が没却される
求職の申込みがスカウト前に必要か NO。勧奨に応じた事後的な申込みでも足りる

イメージ:

従来の職業紹介=「仕事探してます!」という人と「人材探してます!」という企業をマッチングする。

スカウト=「仕事を探していない人」に声をかけて「どうですか?」と誘う。

→ どちらも雇用関係成立のための便宜を図る行為であり、職業安定法の規制が及ぶ。

③ 手数料最高額規定の「私法上の効力」

「私法上の効力を否定する」とはどういう意味でしょうか。

用語 意味
公法上の規制 違反すると罰則・行政処分の対象になる
私法上の効力 当事者間の契約・請求権として有効かどうか

最高裁は、職業安定法32条6項が私法上の効力をも否定する趣旨だと解釈しました。

flowchart LR
  A["報酬契約200万円"] --> B["最高額50万5000円"]
  A --> C["超過部分149万5000円"]
  B --> D["有効:支払義務あり"]
  C --> E["**無効**:支払義務なし
(職業安定法32条6項)"]

④ 「調査活動費」という名目分けは意味があったか

上告人は「50万円は調査活動費、150万円は報酬」と分けて契約しましたが、裁判所はこれを一体として「職業紹介のあっ旋の対価」と判断しました。

結論: 名目を分けても、実質が一体として職業紹介の対価であれば、全体として手数料最高額規制の対象となる。

⑤ 争点と条文の対応表(逆引き)

争ったこと 見るべき法理・条文
スカウトがあっ旋か 職業安定法5条1項・本判決
有料職業紹介の許可 職業安定法32条1項ただし書
手数料最高額の効力 職業安定法32条6項・施行規則24条14項・別表第3・本判決

本ナレッジは判決解説の整理であり、個別の法的助言ではありません。